声がする
―誰かを求める声が
呼んでいる
―戻っておいでと優しく諭す声が
告げている
―決して手をとってはならないと諫める声が




――あぁ、どうしてどの声も懐かしい響きをしているのだろうか


あの人たちの声でもないというのに....





【02】喚び声の書《01》





五月の初め。
一般的にはゴールデンウィークと呼ばれている夢の1週間。
予備校の先生にとってみれば、学校なんかに無駄な時間をとられることのない24時間勉強体勢の
夢の1週間かもしれないが、受験生の私達にとってみれば、それは、まさに地獄の1週間だ。


予習、授業、テスト、復習のエンドレスリピート。


別に勉強が嫌いじゃない、むしろ、好きの方に分類されるだろう私でさえ、流石にここまでくると
うんざりしてきているのだから、あの子にとってみれば、それはそれは悪魔の時間だろう。
ブーブーと先生に文句を言いながら、周りのクラスメイト達に励まされ、必死に解いている
あの子の姿が容易に目に浮かぶ。


―ふぅ


漸くこの問題にもキリが付いた。
周りにはまだまだカリカリと書き込む音がする。
私は先生にばれないようにそっと手を休めると、再び思考の渦に身を沈めた。



私達が通っている予備校は地元では有名なところだが、規模はそんなに大きくはない。
故に、実績重視のスパルタ教育だ。
"皆が全員ライバルだ!周りを敵と思え"というのが当たり前。
だから、此処の空気はいつもピリピリと張り詰めていた。
そんな冷たい空気を変えてしまったのが、あの子―結衣だ。


あの子がこの予備校に来たのが、今から約2年前。
そして、私があの子と会ったのもその時だ。
息苦しいくらい殺伐とした雰囲気の中で、いつもお日様のように温かい大輪の向日葵の
ような笑顔を浮かべていた彼女。
その彼女が偶々泣いていたところを私が目撃し、話しかけたのが始まりだったりする。


今でも、何故あの時面倒なことが大っ嫌いな自分が彼女に話しかけたのか
・・・・・・・・・その理由は未だに分からない。
分からないけれども、ただなんとなく分かることは、あの時声を押し殺して泣いていた
彼女が、昔の、あの人達に会うまでの自分に被って見えたということだけ。






あれから、2年間。
色々なことが起きたけれども、私はあの日以来、あの子の泣き顔を1度も見たことがない。
あの事件があってからは、何故か私の顔を見て一瞬哀しそうな目をすることはあったけれども......
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耳を澄ませば、かすかに聴こえる記憶にないはずの懐かしき喚び声。
そして、その声に応じて徐々に蘇ってくるあの日の感覚。


どうか、どうか、もうこれ以上何も奪わないでいて欲しい。
人々が何も変わらない退屈だと言う毎日が、私にとってはかけがいのない唯一のモノなのだから。








もし、己の全てを捧げれば守りきれるというの
ならば
私は喜んでこの身を、この命を差し出そう。